きみのために朝食を

 目を開くと、カーテンの隙間から強い日差しが差し込んでいるのが見えた。
 すでにかなり陽は高くなっているらしい。
 次に腕の中に視線をやると、長い栗色の髪がシーツと自分の腕に散らばっていた。持ち主は気持ち良さそうに自分の腕枕で眠っている。当分起きる気配はない。
 ──昨夜、無理をさせた自覚があった。
 まださほど行為に慣れているわけでもないのに、細い腰を持ち上げて好き放題に揺らした。自分から動かせとも言った気がする。体格差のある自分の身体を受け止めようと必死になる健気さが見たくて、わざと体重をかけたりもした。今思い返すとサディスティックな自分を殴りたくなる。
 それと同時に、その時の彼女の愛らしさが脳裏に蘇った。
 快楽に弱いのだろう。身体は辛いはずなのにそれでも欲しがる声は甘かった。涙を流しながら自分を見上げる大きな碧眼が愛おしくて、何度も口付けたのを覚えている。
 そこまで思い出して、慌てて頭を振った。せっかく目覚めたというのに、また変な気分になりそうだ。
 腕のなかの彼女を起こさないよう、慎重に腕を抜いてベッドから立ち上がる。
 目覚めた彼女のために、朝食でも用意してやろう。
 いや、すでに昼食と兼用といった時間か。あの細い身体を維持するのに想像の倍ほどカロリーが必要な彼女のために、たっぷりと旨いものを拵えるとしよう。
 海外生活の長かった彼女は、朝はパンを食べる。トマトとチーズのサラダ、オニオンスープ、あとは分厚いベーコンでも焼くか。卵の焼き方は、まぁ起きた時にリクエストに応えてやるとしよう。
 起きてきた彼女は食卓を見て、きっと大きな瞳が零れそうなほど見開き、すっごくおいしそうですね! お嫁さんに来てください! とか阿呆なことを言い出すだろう。その光景を想像して、思わず口角が上がった。
 さて、それじゃあその健気な阿呆のために、腕を振るうとしようか。
 
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「うわぁ、すっごく美味しそうな洋風朝食! でも夕神さん、朝はご飯派でしたよね?」
「たまにゃいいだろうよ」
「わたしに合わせてくれたんですね。うれしい!」
『アリガトー!』
「へッ」
「それに、わたしが昨日お泊りすることも期待しててくれたんですねッ!」
「……あァ?」
「でなきゃ夕神さんの家にパンもベーコンもレタスもオレンジジュースも、あるわけないじゃないですか。わたしのためにわざわざ買い出しに行ってくれたんでしょう?」
『夕神サンノエッチー』
「………………」
「次はわたしが夕神さんのために朝ごはんつくりますからね!」
「……勝手にしろや」
 
『きみのために朝食を』Closed.