疲れた夜の特効薬

 

 夕神はここ暫く、仕事が立て込んで心音と会えていなかった。

 心音の方も珍しく忙しくしていたようで、裁判所で会うことはあっても、外で会いたいとは言ってこなかった。そういうこともあるだろうと、これまで大して気に留めてもいなかった。

 10日ほどで、気になるようになった。

 下半身の生理欲求が脳の隅に居座っている。10日も心音を抱けず、ぶっちゃけ溜まっていた。

 仕方がない、抜くか。

 夜中の自室。ティッシュボックスを傍らに用意し、パソコンでどこにでも落ちていそうなエロ画像を引っ張ってくる。一物をいくらかこすってみるが、溜まっているはずなのに反応はなかった。手っ取り早く済ませてしまいたかったのに、どうもそういう気分ではないようだ。

 アホくさい。仕事で疲れてンだ。さっさと寝るか。

 さっと下半身をしまってベッドに横になる。傍に置いていたスマートフォンが、メールの着信を光で伝えていた。画面を確認。心音からだった。

『今、なにしてますか』

 ……いきなり答えづらい質問をされた。

 メールならばノイズは伝わらないだろうと、寝るところだった、と返信する。すぐに返事が返ってきた。

『電話しちゃ、だめですか?』

 ──そう言われると、無性に声が聞きたくなってくるから不思議だ。思わずこちらから電話をしようとして、待て、と思い直す。

 さっきまで自分は、なにを考えていた?

 生理欲求だ。仕方がない。だが、心音にそんな欲求不満を聴き取られたらどうする?

 今更なような気もする。けれど、それでも夕神はそういった男の劣情を、必要以上に心音に聴かせることには抵抗があった。

 今日はもう寝る、と返信する。しまった。明日家に来いと書けばよかった。メールを送り直そうか、と文面を打ちかけているところに、返信の通知。

『さみしいです』

 夕神は自分の心臓が撃ちぬかれた音を聞いた気がした。脳裏に心音のうなだれた表情が浮かぶ。今すぐ抱きしめてやりたくなった。

 今度はためらいなく通話のボタンを押す。ワンコールでつながった。

「あ、あれ? 夕神さん、もう寝るんじゃ……」

「10分でそっち行く。徹夜する覚悟決めときなァ」

 

『疲れた夜の特効薬』Closed.